東京ステーションギャラリー
2025年5月13日
2025年5月13日
ぶらり建築散策
今回は日本人なら誰もが知る東京駅、そしてその駅構内に併設する美術館に立ち寄りました。
東京駅については改めての説明も不要かと思います。しかし行ってみると知らないところや素敵な空間、また発見がありました。規模も概要も成り立ちも周知ではありますが、見学内容を共有できればと思います。
ざっと概要からおさらいしますと、乗降客数は世界8位、プラットホーム数は日本一。敷地面積46,800㎡、全幅300ⅿ超、丸の内中央口からホームを跨ぎ対面の八重洲中央口出口までは220m、と出口を間違えた瞬間に遅刻が確定してしまう、とんでもない広さです。その中でも赤レンガのいわゆる東京駅を指す駅舎は丸の内側にあります。
東京駅丸の内駅舎は1914年に竣工。現在、国の指定重要文化財でありながらも使われ続ける駅舎は、その中に一般に利用可能なステーションホテル・ラウンジ・老舗店舗が軒を構えるほか、展示スペースを有する美術館も併設されています。
今回はその美術館(東京ステーションギャラリー)で開催中の「タピオ・ヴィルカラ展」を巡ります。
東京ステーションギャラリーは意外に古く「駅を単なる通過点ではなく薫り高い文化の場として皆様に提供したい」という願いにより1988年に誕生した駅併設美術館です。
GW中ということもあり駅は観光客で賑わっていました。入館口でチケットを買い、ガラス張りのEVで3階へ。展示品を見ながら下っていく順路を進みます。
タピオ・ヴィルカラ(1915-1985)は、モダンデザイン界で他を圧倒したイッタラのデザイナー。名前は知らなくともガラス器を見ればご存じの方も多いのではないかと思います。
展示はものすごい数でした。ガラス以外にも木・鋼材、個人または夫婦制作の作品、スケッチ・絵画、他に映像コーナーもあり見ごたえがあります。唯一撮影が許されていた名作「ウルティマ・ツーレ」は、ラップランドの静寂から着想したといわれるイッタラを代表するガラス器。自然環境の厳しさと白夜が存在する北欧フィンランドならではの研ぎ澄まされた作品群体でした。
©タピオ・ヴィルカラ ©イッタラ
展示と展示をつなぐ通路には、創建当時の建築物を見れる場が設けてあります。荒々しく削られた鉄骨やレンガに歴史を感じると同時に、それらがもつ渋さや深みと対極にある若さ(現代建築)とが融和した空間は、歴史を知るうえでもまた建築好きとしても大変ありがたい試みだと思います。
立ち止まる人はいませんでしたが、そういう空間こそ丁寧に見ておきたいです。
また白バックが多い美術館にあって、このような背景は珍しいように思います。重要文化財の壁もかえって新鮮な感じがします。展示との切り替えもうまく出来ていて、落ち着いた空間で心地良いです。
一方、空襲の痕跡も見て取れます。
レンガとレンガの間にある黒いものは「木レンガ(内装材を固定する目的で入れる木材で現在でも使う工法)」 木が黒く見えるのは第二次世界大戦の空襲により炎上・炭化したためと案内にありました。空襲による駅舎内犠牲者はいなかったようです。
3階部分を焼失した東京駅は2階建へ減築、南北ドームは八角屋根へと姿を変えつつ、立て直しを図ります。営業を急いだために当時は4~5年持てばいい程度の復旧工事だったそうです。(出展/©東京ステーションギャラリー)
特例容積率適応地区と丸ビルのカラクリ
その後、幾度も建替えや取壊しの危機にさらされた東京駅。2000年に「特例容積率適応地区」が創設されます。これは未利用の容積を周辺街区に移転・売却できるという地区限定の特例制度です。東京駅はこの制度を活用し上空に大量に余っている容積をごそっと換金、資本を得て保存・復原工事に着手します。(この制度は建築士試験に出るほど周知の制度である一方で、実体のない「容積率」を売買するという突飛な発想に加え、丸の内の名だたる企業を巻き込んだ実行力、指定地区以外は使えない制度という点においても特例中の特例といえると思います。)
周辺のビル群が、指定容積率を超えて建替え・高層化できたのはこういうカラクリがありました。一方その陰には、東京駅を復原するべく市民による保存運動や建築学会の保存要望など、たくさんの地道な活動が制度制定を後押ししたことも併せて覚えておきたいです。
駅舎は無事工事を終え、2012年に創建当時の姿に復原されました。
東京駅舎の魅力
建物としての魅力は何といっても赤レンガの外観と格式ある意匠だと思います。設計は辰野金吾(1854-1919)ですが、設計の前任者がいることはあまり知られていません。
もともとの案はドイツ人技術者が設計した和風建築のデザインでしたが、当時の西欧列強へと意識が向いた日本人には受け入れがたいものであったためイギリス留学を経験した辰野に話が舞い込みます。配置計画を踏襲しつつも辰野デザインで設計されたのが現在の丸の内駅舎です。日ロ戦争の影響もあり設計だけで7年を費やしたといいます。
辰野は日本銀行本店をはじめ、格式を求められる全国の建築設計に携わります。西欧風のそれらは辰野式と呼ばれ周知の一方、例外的な意匠の建築も存在し、各地で見ることができます。奈良ホテル | 奈良市 / 天見温泉南天苑 | 大阪府 河内 / 旧松本健次郎邸 | 北九州市 戸畑 / 武雄温泉新館 鐘楼 | 佐賀 武雄市
話を戻して。
駅舎の魅力、個人的には赤レンガの存在そのものにあると思っています。この赤レンガは単に意匠としてのテクスチャではなく、耐力を担う構造部材として使われています。これは昆虫でいう外骨格のようなもので形を成す上で必要不可欠なものです。(建前上タイルとしたところは全体の1割程度であり、ほとんどの部分を鉄骨とともに耐力を担っています、そのため鉄骨”煉瓦”造と分類されます。)
外観にただならぬ重みを感じるのは「レンガの存在そのものに意味がある」なのかもしれません。保存・復原された一番の理由はこの貴重な骨格にあると思っています。
現在ではほぼ皆無となった造り。その意味においても現代建築とは違った魅力を感じます。
東京駅。特段理由を持って立ち寄ることはありませんでしたが、改めて伺って調べてみると知らないことが多分にありました。長くなり割愛した内容もありますが、復原までの道のりはなにもかもが例外で、工事も設計も資金繰りも大変だったと思います。その反面、この景色を残したいという意思と熱量が詰まっていたように感じました。
今年で111歳を迎えた東京駅丸の内駅舎。普段当たり前に見えている景色にも、たまには立ち寄ってみるのもいいのかもしれません。
「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」展は2025.6.15まで。
場 所 : 東京駅丸の内駅舎構内
名 称 : 東京ステーションギャラリー
入館料 : 大人1,500
時 間 : 10:00 – 18:00
休館日 : 月曜日
竣 工 : 1914
設 計 : 辰野金吾(基本構想:フランツ・バルツァー)
出 典 : 故人年表/建築年表/由来/他©東京ステーションギャラリー©イッタラ©wikipedia