旧小坂邸
2025年2月15日
2025年2月15日
ぶらり建築散策
恵方詣りのついでに旧小坂邸に立ち寄りました。
場所は東京都世田谷区。
武蔵野台地の先端の、平地と斜面が混在する緑地帯の中に旧小坂邸はあります。斜面の落差は20mほどで木々が開けた庭園からは85km先の富士山を望むことができます。
家主の故小坂順造氏は信濃銀行取締役や貴族院議員を務められた方。こちらは別邸で竣工は1938年(昭和13年)設計者は調べてもわからず、施工は清水組(現:清水建設)現在は世田谷区が管理する指定有形文化財です。
何気なくお邪魔させていただいたのですが、質素ながらとても良い空間でした。
吹抜け、むき出しの梁、八寸角の柱、三和土、と名家には珍しい農家風の玄関。上に行かないと決めた設計が潔く、頭上に広がる余白がより贅沢な空間に仕上げている。
入間を抜けた和室と縁側。ほとんどの柱が角を表皮のかたちを残した面皮(めんかわ)柱が使われていました。許可を得て触りましたが、見た目にも温かみを感じます。
案内によると、縁側の丸梁は京都北山杉で10m以上の一本物、長押は掛りのない分厚い無垢材、五三桐の透かし欄間、板目で合わせた雨戸と小窓、襖の紙はよく見ると細かな花模様が入っていて、いずれも現代ではめったにお目にかかれない貴重なモノばかりですよ、とのこと。
個人的には昔のメラメラした透明ガラスが見れただけで胸アツです。
飾りは地域の方の寄贈によるもの。
縁側。板間と畳敷きの違いで外と内のわずかな境界線を感じられるという発見。(掃き出しだから成立しているのかもしれませんが。)
床がない茶室。要素少なくも上座/下座がわかりやすく分けられていてより現代的な空間に感じる。その一方で、境界のあいまいさから古き良き日本も感じます。
廊下。内蔵(うちくら)の脇に置かれていた冷蔵庫、こちらは当時のものでゼネラルモーターズ社製だそう。
配色と意匠がかわいい洗面脱衣室。水場ながらも木材にシミや垂れが少ない点、銅製シンクに緑青錆が出ていない点、建具の矩に狂いが無い点に驚きます。
浴室。特段お手入れされている訳ではなさそう。にも拘らず永年維持できているのはある意味で理想。材や納めの適材適所が功を奏しているのだろうと感じます。
洋式の寝室。欄間はステンドグラス。腰下の意匠格子の奥はセントラルヒーティング。この時代にあったとは驚きです。
ガラス戸と中桟位置を合わせて存在を消している網戸。細かいところにも意匠設計がなされている。
奥の書斎。床は無垢のヘリンボーン、80年も余裕に感じます。窓部はガラス戸と障子の間に雨戸があるめずらしい納まり。案内によると障子が結露で傷まないように間に雨戸があるんですよ、とのこと。
部屋毎に意匠が違うのでつくる側は大変だったろうと思う反面、丁寧な仕事ぶりを見ると大工さん含め職人の皆さんが楽しんでお作りになられたようにも感じます。傷みがありつつもいい空間。
安藤忠雄さんが「良い建築は触りたくなる」とよく仰っていますが、そんな感じの家でした。
空間にこだわり、造りにこだわり、材にこだわる。だから知りたくなるし、触れたくもなる。愛されて残っていく家はそういう家なのかもしれません。それに 良い建築は触りたくなる というのは単に建築的な評価だけではなく、家の 持ち にも影響があるように思います。住んでいるうちはなんともないのに人がいなくなった途端にボロボロになる畳がそれです。
昔の人(ウチの祖母)は人が触れるものは長持ちするよと、よく言っていました。そう言いながら自分の足に馬油をぬり込んでいました。祖母も祖母の家も長生きしました。(科学的なことはわかりませんが)手当という言葉があるくらいです、触れるということは思っている以上に大切なことなのかもしれません。
80歳を超えた旧小坂邸別邸、経年変化と愛され具合は一見以上の価値があると思います。
建築がお好きな方にもそうでない方にもおすすめです。
場所 :世田谷区瀬田4丁目
開園時間:9:30~16:30
定休日 :月曜日
管理人さん・解説員さんが常駐されていていつでもご案内いただけるようです。私を案内してくださった方は旧小坂邸も建築もお好きな方でとても丁寧に楽しくご説明してくださいました。皆さんそのような方だそうです。いつでも来てくださいとのことでした。
写真/Iphone